死にゆく時に聴いていたい

 8月7日の朝日新聞の朝刊で、「死にゆく人は青空を見ている」という見出しを見つけて、
ちょっと思い当たることがあるわたしは、どぎまぎするような心持ちで読み始めた。

 その記事は没後80年の宮沢賢治を語るリレーオピニオンで、その回語っているのは
映画「おくりびと」が作られるきっかけになった小説「納棺夫日記」の著者、青木新門という方だった。

 納棺の仕事に就いたときに親類からひどい差別の言葉を投げられ、隠れるように仕事をしていたこと。
そのうち「死とはなにか」「亡くなった人はどこへいくんだろう」と考えるようになり、
仏教書を読んでみたが、実感としてわからない。
そんなときに宮沢賢治の「眼にて云う」という詩に出会い、腑に落ちたというようなことが書かれている。


 病に倒れ、話すことも出来ない臨死の状況を描いたその詩は、
書き出しはグロテスクな感じだが、最後はこんな風だった。
「わたくしから見えるのは
やっぱりきれいな青ぞらと
すきとほった風ばかりです」
そこまで読んで、我が意を得たりの心境になった。 


 
 もう十何年か前に、10日ほど検査入院をするように言われたことがあった。
まだ子どもたちは二人とも小学生で、入院なんてありえないと目の前が真っ暗になるような出来事だった。

 どうしても避けられない事態を察して入院し、検査後の絶対安静が過ぎると、
痛いところも苦しいこともないわたしは割と自由に過ごしていられたけれど、
そこは大きな病院であり、普段の生活では考えられないほど死はすぐ近くにあった。
 夜中響くナースコールと、辛そうなうめき声に眠れたものではなかった。


 検査の結果、あと1ヶ月入院をすることになった時、このままでは心まで病気になると思い、
許される限り、周りの方とお喋りをしたり、リラックスして過ごそうと決めた。
イヤホンで耳がおかしくなりそうなので、テレビはサッカーだけにして、
ラジオも残念だけど聞き過ぎないように気をつけていた。


 ある日、とても嫌な言い方をする女医が隣のベッドの方のところに来たので
ラジオで耳を塞いでいると、Christopher Crossの「Sailing」が流れた。
 結婚した年の夏に買ったアルバム「南から来た男」(邦題)の、
B面3曲目に収められたこの曲と、続く4曲目の最後の曲は特に好きだった。
‘80のシモキタの夕方の景色と、このアルバムが重なるのは
よくこのアルバムを聴いてから出勤していたせいだろう。



 IMG_1018.jpg



 その後も、初めての妊婦の夏、呼吸法を練習するときも、
小さかった娘と息子と公園から帰って来て昼寝する時のBGMも、
この曲だった。

 
 死ぬ時に、この曲が聞こえていたら、
午睡に落ちるように、す~っと静かにこの世から離れられるかもしれない。
病室の薄いグリーンの仕切りカーテンを見ながら
ふっとそう思った。


 こちらを見ているみなさんとお別れして、わたしは目の前の海の上を歩いていく。
やがてまわりは雲になって・・・
とめどなくそんな想像をしていた。


 病院に入院しながら、こんな空想をしているのは不謹慎かなと、後ろめたい気持ちもあった。
もちろん、希望が叶えられる保証はどこにもない。
その「時」は、自分で決められるものではないから。
でも、それまで怖くて哀しいだけのものと遠ざけてきた「死ぬ時のこと」を、
そんな風にイメージ出来るようになったのは、とても良い効果があった。
その頃から、夜眠れるようになっていったのだから。


IMG_1019.jpg

 


 実は昨日、緊急地震速報が鳴ったときも、
このレコードを聴いていた。
 ほんの一瞬、「このレコード聴きながら・・・」
そんな思いが頭の中をよぎったが、現実的ではないと感じた。


 そのかわり、数秒後にグラグラと大きな揺れが来て
レコードは波打ち、針は飛び、下手したらプレーヤーごと落下するかも。
だから止めてレコードをしまわなくちゃ。
という考えに切り替わったのだが、怖くて動けず、
レコードが波打つのを、まるで眼で抑えられるかのように睨みつけながら、
寄ってきたそらを抱いていた。


 揺れは来ず、A面も終わり、ふぅ~っと息を吐きながらひっくり返し、
B面を聴いていると、少しづつ鼓動が落ち着いていった。







 「ねぇ、わたしがもうすぐ息を引き取るっていう感じになったら、
クリストファー・クロスのセイリングかけてね」

 ダンナにお願いすると、
「かーちゃんの方が絶対オレより長生きだから、アイツらに言っとけ」と言われる。

 こういう話はお互いが元気な時にしかできないから、
今のうちにあれこれと言っとかないと、と思うけど、
どこまで本気で聞いてもらえるだろうか。



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この記事へのコメント

- 関西人@横浜 - 2013年08月09日 23:07:52

懐かしい曲ですね。

自分のエンディングの曲は、どんなのがいいのか考えましたが、思い浮かびません。

- - 2013年08月10日 15:58:11

関西人@横浜さん

 お腹にライトを内蔵したピンクのフラミンゴも流行りましたよね。


エンディングの曲、もし思い浮かんだら教えてください。

- mikitaka08 - 2013年08月11日 12:25:05

こんにちは

 病院でのご体験、似た体験をした者として興味深く読ませていただきました。
 いつも感じるのですが、LP盤の背景の柱、味わい深くいいですねえ。私はカレンダーの裏を使うのですが、少し考えよう!
 AOR、あまり聴かないのですが、Christopher Crossのこれはジャケットデザインも良く、もちろん中身も良く、聴きましたね。

- 櫟コナラ - 2013年08月12日 10:23:00

mikitaka08 さん

 mikitaka08さんも、入院されたんでしょうか?
今はもう大丈夫ですか?

 LPの背景にご注目いただきまして、ありがとうございます。
実はテーブルの脚なんです。
店を始めるときに作ってもらったのですが、恩師の紹介で飛騨高山の合掌造りの民家の廃材を使わせていただいたもので、我が家唯一の一生ものです。
壁はすべて猫の引っかき傷がすごくて、背景には使えないので、ここにしました(。-_-。)

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